【書評】スティーブン・キング『ザ・スタンド』(文春文庫)

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書評

このところ『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017年秋)、『ダークタワー』(2018年新春)と立て続けに映画化されているスティーブン・キングの作品だが、彼の初期の代表作が『ザ・スタンド』だ。アメリカでは1978年に初版が、1990年にノーカットの完全版が出版された。

この小説はとにかく「長い!」。『キャリー』や『シャイニング』が横幅1センチ程度の文庫本1~2冊に収まるのに、『ザ・スタンド』は一冊あたり500ページ前後の文庫本で5冊もある。並べて横幅を測ってみたら10.5センチあった。改行も少なく字がびっしりで読みごたえがある。

 


ストーリーは、軍のとある研究施設から殺人ウイルスが世界中に広がり、世界は破滅してしまう。わずかに生き残ったアメリカ人は、それぞれが信じる者のもとに結集し、光と闇の勢力に二分される。そして、光の勢力と闇の勢力の戦いが繰り広げられる……というもの。

実は、いまから10年以上前、まだ学生だった時に僕はこの本を一度読もうとして途中で投げ出したことがある。「光と闇の対決」というモチーフがしっくりこなかったからだ。この作品が世に生まれたのは1978年のこと。きっと、東西冷戦のイメージが、当時のアメリカの読者の頭の中に(そして作者の中に)あったのだろう。

なぜ光と闇は戦わなければならないのか。その理由づけはこの作品の中にはない。少なくとも表面上は。ただ単に敵が邪悪な闇だから、光の側に立つ主人公たちは敵を倒さねばならない……というだけのことだ。もっとも、闇の側が直接手を下して主人公たちを害することはほとんどない。

闇の側の頂点に立つのはランドル・フラッグ(イニシャルはRF)、別名「闇の男」である。光の側の人々の99%は闇の男の存在を夢を通してしか知らないのだが、この闇の男を倒さない限り光の側に未来はない、彼によっていずれ我々は皆殺しにされてしまう、という観念に捕らわれる。テレビのニュースや新聞でしか知らないソ連をアメリカ人が恐れたように。

……というように、本作からはいろいろな寓意を読み取ることもできるのだが、単に作者が面白いと思うシーンをとにかく詰め込んでいった作品といった印象も受ける。そして、物語の終盤では重要人物が次々に、拍子抜けするほどあっさりと退場させられていく。膨らませた物語に飽きて-あるいは、夢から覚めて―あわてて幕を引くかのように。

作者がこの作品でやりたかったことは、トールキンの『指輪物語』のコピーなのかも。物語は三部構成だ。第三部は危険な闇の男の領地に、主人公たちが潜入する。全編を通じて、仲間たちと歩む旅路の描写がある。そして、少し小説を読みなれている人なら、いったいどのキャラクターが指輪を捨てるゴラムになるのか、すぐにわかってしまう。

ちなみに、この物語のラスボス=闇の男ランドル・フラッグは、後に『ダークタワー』で「黒衣の男」として敵役で再登場する。『ザ・スタンド』はトールキンのコピーに収まったが、キングは『ダークタワー』でリベンジ・マッチを仕掛けようとしたのかもしれない。

【評価】
★★★☆☆

【こんな人にオススメ】
・映画『ダーク・タワー』が気になる人
・長い小説を見ると読破したくなる人
・ゲーム”Fallout”などの「滅亡した世界」という舞台設定が好きな人

【わたしのホンネ】
これよりも『ダークタワー』と『IT』を読みましょう。