【書評】ディルク・ベッカー編『システム理論入門』(新泉社)

基本的にルーマンの本は難しいものばかりだが、これは(比較的)やさしい部類に入る一冊。

この本を評価するにあたって、悪い点と良い点がある。最初に悪い点から言っておくと、まず誤訳が多い(たけみた先生のブログを参照のこと)。そして編集が雑である。これはもともとのドイツ語版の時点で編者のベッカー教授がちゃんと仕事していないせいもある。

次に、良い点。ルーマンの主著『社会システム理論』よりも、論点がとてもわかりやすく整理されており、かつ順序よく読者に提示されている。これは「講義」という形式を取る以上は、そういう喋り方にな(らざるを得なか)ったのだろうけど。口頭で円環的な(つまり最初に言及されたことの意味が後から行われる言及によって変化するような)説明をされても、何のことだかわからないので(なお『社会システム理論』はそういう書き方になっている……)。

それと、難解なところは読者に注意を促したうえで話を勧めているところ。たとえば、ルーマンの理論を理解するのに大きな障壁になっているのが差異理論的アプローチの概念だが、これを説明するときにわざわざ「今期の講義の中でもっとも難しく、もっとも抽象的な部分」と断りを入れている。普段、こういう親切な説明をルーマン先生はしてくれないので、それだけでも大助かり。

ということで、この本の良さは「ある難解な理論の提唱者が、聴衆(読者)に向かって、彼自身の理論について語っている」というところから生まれているように思う。

……という説明だけでは、この本の利点が結局何なのかよく伝わらないだろう。なので、社会学の他の本とは異なる点、言い換えれば「この本のおかげでルーマン理論のどのあたりがわかりやすくなるのか」という点について、ちょっと説明を試みてみたい。

ルーマンの理論は、「社会とは何か」という我々の認識を変更させるものである。ふつう、私たちは社会を「全体と部分の関係」とか「構造と過程の関係」などというように、異なるもの同士が(接続詞の「と」を使って)結び合わされることによってできているものというイメージを抱いている。

これに対してルーマンの理論は、社会を説明するのに接続詞の「と」を使わないのが特徴だ。ルーマンにとって社会システムとは「ひとつのタイプの作動によって生み出されるもの」である。そして、この後に続くルーマンの理論を理解するには、社会システムが「ひとつのタイプの作動によって生み出されるもの」という前提を理解しないといけない。その基本的な理解を本書が与えてくれるというわけ。

そして社会システムを「ひとつのタイプの作動によって生み出されるもの」と見なしたとき、社会を分析する際にどのような立場を取ることになるのか、つまり「そのように見なすことでどのような利得が得られるか」という点については、本書でしっかり示されています。やったぜ。

なので、自分はルーマンを「社会の理論」というより「認識論」として読んでいます。社会学ではなく哲学という感じ。

※追記

本書では「再参入」「構造的カップリング」「意味」「観察者」そして「オートポイエーシス」などの概念が頻出するが、本書の中でこれらの概念に対する十分な説明が行なわれているわけではない。なので、わからない用語が出てきたらアンチョコ(死語)を使って意味を調べたほうがよい。『ニクラス・ルーマン社会システム理論用語集』という本が出ている。

【評価】
★★★☆☆

【こんな人にオススメ】
・ルーマンの理論に興味がある人
・社会の問題をシステムで考えてみたい人
・『社会システム理論』を読んで挫折した人

【わたしのホンネ】
提起される問題は違うが『権力』も合わせて読むのがオススメ。

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