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【書評】『ブルデュー 闘う知識人』 (講談社選書メチエ)

「界」「ハビトゥス」「文化資本」などの概念を用いて「文化と階級の再生産」を説明するブルデューの社会理論は日本でも有名だ。しかし、これらの概念と理論は「界」とセットで用いなければ意味をなさないという制約があるため、フランスとは異なる「界」、つまり日本においてどこまで適用できるのか、という課題がある。

たとえば、この課題に取り組んだ研究として、最近では北田暁大『社会にとって趣味とは何か:文化社会学の方法規準』がある。統計的手法を駆使した本なので詳しい検証は読んでもらいたいが、とにかく「ブルデューの(モデルから導きだされた)結論を日本社会にそのまま適用することは避けたほうがいい」ということが述べられている。

さておき、ブルデューが生み出した概念は有名だが、理解するのは簡単ではなく、実際に使うとなると注意が必要だ。そこでブルデューの社会理論についてもう少し詳しく学びたいと思って本書を手に取ったのだが、よい意味で期待とは異なる本だった。

著者の加藤晴久は社会学者ではなく、フランス文学者・翻訳家である。著者はブルデューと個人的なつきあいがあり、友人としての視点から、社会学者としてだけでなく大学人として、そして人間としてのブルデューの姿を伝記のていで記述している。

というわけで、286ページある紙幅のうち、ブルデューの社会理論について述べているのは60ページほどしかない。紙数の多くはブルデューの生い立ちや、同時代の知識人との関係、あるいは大学での境遇について費やされている。

大学内における学派間、教授間の権力闘争といった生臭い話もあれば、知の巨人たち(フーコー、デリダ、ハーバーマスらそうそうたる顔ぶれだ)とブルデューがどう付き合い、彼らをどのように評価をしていたかというゴシップがたくさん盛り込まれている。理論についての解説書というより、一人の人物を中心に当時のフランスの大学界の人間模様と力関係を描いたドキュメンタリー、あるいはワイドショーのように楽しめる。

……そうはいっても、社会理論の解説が不十分というわけではない。ボリュームは少ないが、コンパクトではあるがゆえに、ブルデューの社会理論の重要な点はきっちり抑えている。上でも述べたが、ブルデューの諸概念は「界」とセットで用いなければならないということ、ハビトゥスの理解には注意を要することなど、ブルデューの理論を理解・使用するうえで難所となるポイントを取り上げてくれている。

この本を読めばブルデューの理論がわかる(わかったきになる)というものではないが、実際にブルデューの著作を読み進めるうえでわからないところに出くわしたら、本書の解説に立ち返って読み返すことが、役立つだろう。

付け加えると、やはりこの本の魅力は「ブルデューがいた当時のフランスの社会学会の雰囲気を感じることができる」という点にある。興味深い逸話がいくつも収録されている。やや長くなるが、そのひとつを最後に引用しておこう。

“わたし(ジョン・サール)はフーコーの講義と会話の明晰さと書くものの晦渋さのコントラストを不思議に思っていました。そこである日[……]昼食をとっていたとき、単刀直入にたずねました。「ミシェル、なんで君はあんなに難解な書き方をするのかね」。これに答えて彼が言ったことはきわめて示唆的であるように思います。「わたしがもし、君と同じように明晰に書いたら、パリの連中はわたしを本気に受けとめないだろうよ。わたしの書くものをこどもっぽい、おめでたいと考えるだろうよ~フランスではすくなくとも10%、理解不可能な部分がなければならないんだ」。わたしには信じがたいことでした~ピエール・ブルデューにその話をしました~ピエールはすぐに話に乗ってきました。ほぼこう言いました。フランスではある本が真剣に受け止められるためには、10%ではだめで、少なくともその2倍、20%は、理解不可能な部分がなければ、と!”

 原文(の魚拓)はこちら

……↑が真だとしても↓の8~9割は理解できるということか(白目)。

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